ピアノ=人生の全て

お客様: 指揮者O.S.

子供の頃、夜空の星のように輝くたくさんのピアノ曲に夢中になっていた。あの美しい音楽の全てを自分と同化させたかった。
新しく届いたFazioliでシンプルな旋律を弾いてみる。歌うような美しい響きに、心の中の何かが揺れる。古の演奏者達は同じ曲にどんな事を感じたのだろう。

友人や大切な人が病気になったり、短い人生を終えてしまったりする中で、これからの自分のすべき事を考えなくてはと思った。先ず、どんどん増えていった所有楽譜の半分を処分した。一生懸命広げていった自分の世界を一気に狭めてしまったような気がしたが、本当に自分が大切にしなくてはいけない曲を選ばなくてはいけないと思ったのだ。そしてその後に、新しい楽器を探し始めた。

Fazioli の名を初めて知ったのは、もう10年以上前。「 パリ左岸のピアノ工房 」は生活の中に溶け込んでいくピアノとの関わりを描いた素敵な本だ。
最高の素材を最高の技術で、最高のピアノを作る、このロマンに心惹かれた。世界中には素晴らしいピアノが数多あるが、その上をいく楽器を一から作るというのだ。わくわくする話に無我夢中で繰り返し読んだ。

9月の台風と台風の間、この搬入の為にかと思うようないいお天気の中、私のFazioliがやってきた。狭く複雑な経路を魔法の様にすり抜けて、小さな部屋に納まった彼は、まるで以前からずっとそこにいるように静かだった。大好きな曲を弾くと、その音楽は身体に沁みていき、そこに私とピアノ以外、他のものは何も無かった。
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