中札内文化創造センター ハーモニーホール

中札内文化創造センター  ハーモニーホール

採用ピアノ  ファツィオリ F278
住所  北海道河西郡中札内村東4条南6丁目1−3
席数  487席

2020年に北海道のホールとしては初となるファツィオリを設置した中札内文化創造センター ハーモニーホールは、ギャラリーや図書室などを有する中札内村の文化教育施設内にあり、音響に優れた音楽ホールとして知られている。
中札内文化創造センターを管理運営する中札内村教育委員会の上田禎子氏に、同村が推進する音楽プロジェクト、ピアノ選定の経緯や導入後の状況について伺った。

中札内村教育委員会 教育長上田 禎子(うえだ ていこ)氏

なかさつ音まちプロジェクト

中札内村は、十勝平野南西部、日高山脈札内川の上流部周辺に位置し、日高山脈と清流による美しい景観とアートや文化醸成への積極的な取り組みが特徴の魅力溢れる村である。同村の数ある取り組みの中の一つに2018年に開始した「なかさつ音まちプロジェクト」がある。

「中札内村では、1996年から20年間『北の大地ビエンナーレ』という絵画公募展を通じて村民とアートの村づくりを進めていました。それを引き継ぐ形で、今度は音楽を中心として『なかさつ音まちプロジェクト』を始めています。このプロジェクトは、中札内村のスローガンである『花と緑とアートの村』を推進することを目的に、北の大地ビエンナーレの作品の活用、花のイベントや観光施設と連携しながら音楽事業を行い、中札内村らしさをさらに高めてファンを増やすことを目指しています」

インタビュー時は、道内に新型コロナウィルス感染拡大防止のための緊急事態措置がとられている状況であったが、予定されていたイベントの中止や延期がありながらも、ハーモニーホールのほか、「道の駅なかさつない」の屋外会場での木管五重奏のコンサートなどを開催できているとのことであった。上田氏の穏やかで明瞭な語り口からは、プロジェクトに対する真摯な思いが伺える。

同プロジェクトでは、アーティストを招聘してコンサートを主催する他、YouTubeを通じてのコンサート動画配信やSNSの活用により、村外に向けても積極的に情報発信を行なっている。

中札内村教育委員会 YouTubeチャンネル

名前すら知らなかったファツィオリを選定

音楽プロジェクトを実施しているという背景があるとはいえ、教育委員会を中心に数あるメーカーからファツィオリを選定するに至った過程に興味を持ち、その経緯を尋ねてみた。

「なかさつ音まちプロジェクトの中心となるハーモニーホール創立時からのセミコンサートグランドピアノが20年を経過したタイミングで、ホールの大きさにあったフルコンサートグランドピアノの導入を検討することになりました。ふるさと納税によるご支援もあり、少し高額でも購入できるのではないかということも背景にありました。当初は、担当者をはじめ皆、名前も知らない、知名度も低かったファツィオリを購入することになるとは思ってもいませんでした」と朗らかに笑う上田氏。

「全ての国内・海外メーカーから情報収集するところから始め、ホールに合った響き、使いやすさ、話題・注目度の3点から検討を進め、数名のピアニストからの意見を参考にして、最終的にファツィオリに決まりました。ファツィオリの品質については、ピアニストからの意見を聞いて全く心配していませんでしたが、実は調律の面での心配がありました」

地域の調律師たちが、ファツィオリに触ったことはもちろん実物を見たことがないとなれば当然のことであろう。実際、懸念していた点は導入後どうだったのだろうか。

「調律については、ファツィオリの調律師が保守・点検に来てくれたときに、地元の調律師に作業を見せて研修してもらうこともできますので、現在は全く心配していません。また、予算のこともあり、頻度高く調律を行うことが難しいのですが、当ホールのF278は三層響板を備えているタイプのためか、音の狂いが少ないと言う声も聞いています」

ハーモニーホールが所有するF278は、共に特許技術である三層響板とコンサートグランドアクションを備えた特別仕様で制作されている。

「ファツィオリの音色の素晴らしさは、口コミで広がってきています。道内の方からは、コンクール出願用の撮影希望など多数の貸し出し依頼が来ていますし、東京からのピアニストの方も、東京でもファツィオリを弾く機会がなかなか無いと喜んでいただいています。ファツィオリが理由でハーモニーホールで弾こうと思う気持ちは皆さん必ずあると思います。演奏者からは、音色が素晴らしい、音は繊細だが弾きやすいと感想をいただいています」

さらに、少し照れながらも上田氏自身がピアノに触れた感想を教えてくれた。

「私はそんなに弾けないのですが・・・、グランドピアノは、グッと押さないと音が出ないイメージがありましたが、ファツィオリは軽いタッチでもすぐ音がでるので繊細な表現ができるのがわかります。それに、ピアノ自体がとても美しいです。木目の艶やかさや細部の丁寧な造りはパンフレットや写真では分かりにくいですが、本物のアート作品だと思います」

学習の一環で取材に来た中学生にピアノに触らせてみたら下に潜り込んだ子がいて、底部がきれいですごいと驚いていたエピソードや、村民に限らず試弾会を開催していることなどを楽しげに語る上田氏。その様子からは、教育委員会として多くに人にピアノに触れる機会を提供したいという強い思いが感じられ、「なかさつ音まちプロジェクト」は村外からの人の流れを生み出すものであると同時に村民に向けた生涯教育の一つでもあるということを改めて認識させられた。



自治体主導のアート活動の課題

順調に見える中札内村の取り組みだが、自治体がアート活動を行う難しさはあるのだろうか?

「アートの取り組みは人の心に響くものなので、予算をかけたら結果が出るわけでもないという難しさがあります。ただ、私たちは、その素晴らしさは理解しているので、工夫を重ねながら村民に対して、また世界に向けても情報発信していきたいと思っています」

「村民の間でファツィオリの認知は上がっています。特に子供たちは、低学年から中高生までとても音のいい素晴らしいピアノがあるということを認識しています。これからは、音楽と縁の薄い方にも、生涯学習の取り組みを通じてピアノや音楽の素晴らしさを知ってもらいたいと思っています。音楽は魂の薬とも言われていて長寿にもつながります。村民にはアートを身近に感じて心豊かに穏やかな生活を送って欲しいと願っています」

また、中札内村の経験から同様な取り組みを考える地方自治体へのアドバイスとして次のように話してくれた。

「私たちの経験からですが、地域内の理解者・協力者を広げていくことが大事だと思います。また、自分たちたけで実施するとなると困難な点も多いので、外部の企業や学術機関と連携することが大事だと改めて感じています。施設設備の点では、建設・導入時から数十年後を見越しての判断が必要です。その時は良くても、将来に渡って維持・修繕ができるのか、費用的負担がどの程度かを見越した判断が必要とされます」

個性豊かな取り組みで村外からの人の流れを作り出し、さらに子供から高齢者まで村民への教育機会の提供に積極的に取り組む中札内村。今後の活動に注目していきたい。

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