ショパンコンクールへの道 (11)

コンクール開始前に調律師仲間から「1次審査が特にきつく、段々とゆとりが出てくる」と聞いていました。しかし2次審査が始まるとファイナルまで1日の休みもなく続き、ゆとりが出てくるどころか疲労もピークを迎えていました。思えばホテル⇒ホール⇒ショールーム⇒ホール⇒ホテルを徒歩で移動し、ホールでの仕事以外はショールームでもう1台のピアノの手入れとよく働きました。ワルシャワ到着後ポーランドのディーラーからレンタル用F278 のメインテナンスを頼まれ気軽にOKしましたが、ハンマーのファイリングからダンパーアクションのオーバーホール、イタリア工場から必要なパーツを取り寄せ交換するなど、予想以上に大変な作業でした。
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ポーランドの技術者、マリアンも私の作業に付き合ってくれ、あれこれ手伝ってくれるうちにとても良い関係を築くことが出来ました。マリアンのお父さんもピアノ技術者で、子供の頃からまわりにはいつもピアノがあったそうです。そんな環境から彼はいつから調律師として仕事を始めたかは分からないと言っていました。ポーランドに初めてファツィオリを紹介したのも彼で、パリに行った時に初めてファツィオリピアノと出会い、それ以来ファツィオリを愛して止まない人ですから、今回のショパンコンクールにかける意気込みは凄いものでした。いつも感じることですが、パオロに集まってくる人々は皆こんな人達ばかりですから、私も何の躊躇いもなく、すぐ仲間として仕事が出来るのです。そんな人達の激励もまた私の大きな原動力となり、3次審査の仕事に繋がるのでした。

つづく・・・

黒檀のF228をご覧下さい!

「ショパンコンクールへの道」はまだまだ続きますが、弊社の越智は調律の仕事で非常に忙しいですので、しばらくお待ちください。 新着のゴージャスなピアノをご紹介します!:
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このピアノはF228ですが、Macassar Ebony材(黒檀)の仕上げです。この仕上げはFazioli史上初めてです。 今まで、Fazioliの木目ピアノを造るときは、ほとんど素敵な玉杢の木材を使用しました。「Burr」もしくは「Briar」とも呼ばれ、根っこ近くの木目が非常に複雑なのが特徴です。 たとえば、以下のピアノはウォルナットのBurrです:
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一般のウォルナットより、Burrの高級さはすばらしいですね! 逆に、黒檀は非常にElegantな木材です。特にピアノには昔から使用されてきました・・・そう黒鍵は同じ黒檀ですね。 このピアノを造るために、イタリア工場との色々な相談が必要でした。大きな問題点は化粧板の長さです。F228のボディの長さのために普通より長い化粧板が必要でした。試行錯誤の末、パオロ・ファツィオリ自身も大変喜ぶ出来上がりとなりました。彼の美的センスをくすぐる仕上がりとなり、、これからもっと黒檀のピアノをチャレンジしたいそうです。 しかし・・・第一号は日本にあります!!! 到着したばかりですが、すでにたくさんの方々がご覧になり、感激されました。 ぜひ、一度パオロ・ファツィオリのクリエーションをご覧下さい。そして楽器としての素晴らしさもご体験下さい。 (P.S. 他の写真を 「最新カスタムメードピアノ」 のページでご覧ください!


ショパンコンクールへの道 (10)

1次審査発表の翌日、コンクールはお休みですが各メーカーの調律師は休むことは出来ません。メーカーごとに時間が割り振られ、各々ピアノに向かいます。1次審査のピアノを弾いた感想をそれぞれ4人から聞き、ピアノの調整の方向性を検討します。リクエストもタッチが軽いのを好む人や重いのを好む人、音色に至ってはピアニシモはそのままにもっとパワーを欲しいなどそれぞれでした。幸い4人の審査日が分かれたため、それぞれのリクエストを加味しながら調整することが出来ましたが、参加者にとっては調整後のピアノを事前に試弾する事も出来ず、ぶっつけ本番という状況の中での演奏です。客席から見守る私も演奏開始後の表情や音、終了後に聞いたリクエストを踏まえ、次の審査の為に調整を再検討します。
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こうして5日間に及ぶ2次審査も終わり、直後の21時から23時45分が私に与えられた作業時間でした。その間に2次審査の発表があった為、1次に続き2次の審査発表にも立ち会うことは出来ませんでした。ポーランド人の技術者が作業中の私に結果を伝えにきてくれましたが、4人全員を3次へと後押しする事が出来ませんでした。とても残念でしたが、堂々たる素晴らしい演奏は今でも私の記憶に残っております。

つづく・・・

ショパンコンクールへの道 (9)

ようやく1次審査も始まりましたが、それまでの1週間が1カ月の様な気さえする、とても濃密な時間が経過しました。調律師である私はピアノの移動などで審査中は舞台袖にいなければならないと思っていましたが、ピアノの移動はワルシャワ国立フィルのスタッフに任せることが分かりました。ということは演奏中は客席で聴けるということです。

普段の仕事ではリハーサルは客席で聴けることはあっても、本番を客席で聴けるチャンスは中々ありません。ましてやコンクールとなりますと参加者が競う訳ですから、こちらとしましても失敗は許されない真剣勝負の場となります。まじまじと自分の仕事をしたピアノの音を聴くわけですから、客席で聴いている私も音楽を聴くというよりは、"無事に終わって下さい"とひたすら念じるばかりでした。しかしそんな状況をも忘れさせてくれるような感動的な演奏を聴かせてもらえた場面も数々ありました。

ショパンコンクールのHPではVideo archiveとして参加者全員の演奏を聴けますので、ぜひお聴きになってみて下さい。1次審査の結果ではファツィオリを選んだ4人全員が通過し、2次へと進みました。審査結果の発表は21時からの予定で私もロビーで待ちましたが、0時半になっても発表はされず、私が4時半に起床しなければならない事を知ったDumontに促され諦めてホテルへと帰りました。結果を知ったのはベッドに入る直前でした。全員が通過した事を知ってガッツポーズをとったのは言うまでもありません。

つづく・・・

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