滞在も4日目の夕方、2台の調整も終了しいよいよ選定となりました。今回調整をした2台と前回6月に調整した2台の合計4台からの選定です。パオロ曰く「ファイナル・セレクション」という掛け声で、ホールにはパオロとヘッドテクニシャンのクラウディオ、テクニシャンのトーマスと私の4人が集まりました。ピアノの選定は今まで数多く経験しましたが、パオロの選定の方法はやはり特別でした。88鍵をパートごとに分け、更に細分化したパートごとの優劣を順位として記録します。この様な方法で行うと自ずと1番を占める楽器が決まってきます。その後各ピアノを演奏し音楽的な観点からも楽器を判断します。現在までの30年間、ピアノが完成する度にこの様な方法で楽器を判断してきたのでしょう。それはそれは真剣な雰囲気の中、選定作業が行われました。結果はやはり最後に調整したピアノが4人の意見として一致しました。ワルシャワへはこのピアノを持ち込んで、コンクールに臨むことに決まり、
今回のイタリアでの仕事は全て終了しました。帰り際に工場の人々と挨拶を交わしましたが、「また来週来なくてはいけなくなるかもよ」との意味深な言葉。またまたパオロがサプライズを起こしてくれるとは、この時は気付くはずもありませんでした。
(つづく・・・)
そんなパオロの情熱に後押しされ調整も順調に進行した2日目の朝、突然パオロにホールへ呼ばれました。工場には音楽ホールもあり、調整室から段差なくホールステージまで運ぶことが出来ます。ステージには私の知らないF278が1台あり、パオロに促され弾いてみました。なんということでしょう!!!あまりの驚きに声もありません。もうこのピアノがコンクール用としか考えられないような楽器でした。そんな思いをパオロに伝えたところ、このピアノも調整出来るかとの質問。今回の工場滞在の予定は3日間、フライトスケジュールもそれに合わせて組んでありましたが、とにかく変更手続きをしてもらい滞在を延長しました。"とにかく凄いピアノ"という事で今回再び工場に来ましたが、それをも上回る楽器が完成していたのです。この工場に来るといつも何かしらのサプライズがありますが、今回は最大のサプライズでした。調整室に戻り1台目の調整を再開しました。
この楽器も大変素晴らしく大満足でしたが、現状に甘んじることなく常に向上心を持って楽器と向き合う事の大切さ、そんな楽器造りの精神の原点がここファツィオリにはあると確信しました。"伝統"だから"完成"しているからということで、封印されてしまったこの精神をファツィオリと出会い、再び気付く事ができました。
(つづく・・・)
サチーレのファツィオリ工場を訪れるのはかれこれ5度目ですが、この工場は何度来ても楽しい工場です。工場と言うよりは大きな工房といった雰囲気ですが、実に機能的にレイアウトされており、ワンフロアーで段階的にピアノが製作される過程を見る事が出来ます。とても明るく整理整頓が行き届いた清潔感溢れる工場です。
そんな工場から造り出された"とにかく凄いピアノ"の調整が始まりました。いつもの様に日本から工具一式を持ち込み、調整室に閉じ籠りの一日ですが、集中するには申し分のない環境とピアノでした。時折パオロが様子をうかがいに部屋にやって来ますが、私は部屋に到着する前にパオロが来るという事が分かります。彼は工場にある既に完成したピアノや完成途中のピアノを弾きチェックしながら来るのです。一通り弾いたピアノについて職人とのディスカッションを終えた後やって来ます。こんなことからも彼のピアノにかける情熱がひしひしと伝わってくるのです。「最高のピアノを造る」という情熱を現在まで30年間持ち続け、今回のショパンコンクールの公式ピアノ採用となった訳ですから、パオロのかける想いは否応がなしに私に伝わってきます。
(つづく・・・)
6月のショパンコンクールのピアノの選定と調整に引き続き、再びイタリア・サチーレにあるファツィオリ工場を訪れました。というのも突然パオロ・ファツィオリからの電話で「とにかく凄いピアノが完成したから来てくれ!」との事。スケジュール調整をして8月29日から4日間の予定でイタリアに向かいました。翌日の朝7時30分に工場に到着し、"とにかく凄いピアノ"と対面しました。なるほど、なるほど、パオロの言った意味の分かるそんな楽器でした。とにかく仕事を始めなければ、限られた日程の中で仕上げるには時間的に余裕はありません。ファツィオリ工場は朝7時30分から12時、それから1時間半のお昼休みを挟み13時30分から17時まで工場の職人が仕事をしています。35人の職人は黙々と各々の仕事に打ち込み、誰一人として遊んでいる人やお喋りする人も見当たりません。イタリア人というと不真面目なイメージを持つ人も少なくありませんが、サチーレのあるイタリア北部の人たちは、非常に真面目で仕事に対する姿勢も学ぶところが沢山あります。
そんな人たちの中で負けじと黙々と仕事をする日本人唯一人ですが、とても心地よい雰囲気の中で、素晴らしい楽器との対話を楽しむ時間が始まりました。
(つづく・・・)
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