一緒に包装を外し触ってみると、「あっ、見つけた。」

お客様:

近藤様

ここにいたのね。

私にとって出逢うピアノのほとんどはビジネスパートナー、いつも「あなたの響くツボはここですか?」と伺いながら、音のイメージを光に変換して、飛んでいけと強い意志も持って臨んでいる。

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もし、もう一度自宅のピアノを変えるなら、30年ほど前に関西で弾いたあのピアノが良い。まるで、木造りのバーにいる老紳士が、カウンターで私に穏やかに語り相槌を打っているような、その傾けるワイングラスが幾層にも馨り、響きの豊かさと深みで音楽の道標になっていたような、弾き手に寄り添うピアノ。

トリフォノフ君の天上の声をショパンコンクールで聴いて以来、世界一長い弦を持つFAZIOLIに関心はありました。ガルシア君の魂の踊る音に、弾き手を選ぶピアノではないかと物見遊山に寄りました。弦の長さ最強と楽しく試弾の後、イタリアから到着したばかりのピアノも弾いてみないかとワイル社長に勧められ、一緒に包装を外し触ってみると、「あっ、見つけた。」

いつかどこかでまた逢えないかと思っていた、音楽案内人の現れるおもてなしピアノ。しかも出てきたのは老紳士ではなく若き青年。建物に施された彫刻を見ながら心地よく街をエスコートしてくれる、アラジンの魔法のランプでした。無調整でこの状態、これから先もこのピアノにちやほやされながら弾いて行けたらどんなに幸せだろう、人生のご褒美かも。すっかり舞い上がり、若いブランドという蟠りはみるみる萎んで、別のサイズも届いたら触ってみよう、錯覚ではないかもう一度確かめようと、後日再来店して決めました。


自宅に着くと、ピアノは全く別の顔を見せました。数日の移動で眠ってしまったのか、起こしてもだんまり。洞窟の雰囲気になったり、青空が見えたり、おじいさんが現れたりと七変化で、今はピアノの生まれた森を案内されています。但し、タッチが音の中心にはまると瑞々しく音の粒=珠が立ち上がり、この分かりやすさは終始変わりません。よこしまに珠を狙い引っ張り出そうとすると鍵盤は重く、音は夕立のように顔にぶつかり痛い目に遭うばかりです。気負わない素直なタッチが珠玉のピースとなり、自然に集まってパズルの絵の如く音楽を表します。このピアノにとっての魔法の呪文は、<ただ聴きたい音を想い、弾いた音に耳を澄ませる。>これだけです。ほどなく、あの青年との音楽三昧の旅が繰り広げられるでしょう。

ファツィオリに案内してくれた数十年来の第一号の生徒さん、彼女の駐在先スペイン語圏つながりで親しくなれたガルシア君、彼に直接引き合わせてくださったワイル社長、芝浦は亡き父の勤め先でもあり、他にもたくさんの奇跡のようなつながりと出会いがありました。感謝しています。

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